適応・対象となる患者
ケサンラ®は、軽度認知障害(MCI)または軽度のアルツハイマー型認知症を対象に承認された、疾患進行抑制を目的とした抗アミロイドβモノクローナル抗体製剤です。国内では2024年11月26日発売で、PET検査や脳脊髄液検査などで脳内アミロイドβの蓄積が確認された患者に限って使用が認められています。
薬理作用
本剤はヒト化抗N3pGアミロイドβ抗体製剤で、脳内に沈着したアミロイドβプラークを標的として除去し、神経細胞への毒性を軽減します。その結果、アルツハイマー病の進行速度を遅らせる効果が期待されます 。
臨床試験(TRAILBLAZER‑ALZ 2)では、投与群で疾患進行が最大約35.1%抑制され、症状の悪化が4~7.5か月遅延したと報告されています。
効果と臨床意義
- 本剤は症状を改善する薬ではなく、病気の進行を遅らせる薬であり、認知機能の維持、日常生活機能の保持を目的としています
- 特に早期(軽度・MCI)での治療開始が有効で、タウタンパクの蓄積が中等度以下の患者でより効果が高かったという報告もあります
ただし、治療によって完全に進行を止めるわけではなく、また全例で有効というわけでもありません。患者の状態と検査結果に応じて、医師が慎重に判断します。
投与法・使用期間
- 初期段階では、700 mgを4週間間隔で3回輸注、その後1,400 mgを4週間ごとに投与します。投与時間は少なくとも30分間の点滴です。
- 原則18か月までの投与ですが、投与開始後約12か月でアミロイドβプラークの除去が確認できた場合には、投与を終了することも可能です。
- 投与中は**定期的なMRI検査(2~4回目、7回目、14回目など)**により、安全性のモニタリングが行われます。
副作用・注意点
- 本剤使用時に注意すべき代表的副作用は、**ARIA(アミロイド関連画像異常)**で、**脳浮腫(ARIA‑E)や微小出血・ヘモジデリン沈着(ARIA‑H)**が生じることがあります。
- 臨床試験ではARIA‑Eは約24%、ARIA‑Hは約**31.4%**の患者に認められ、一部は頭痛・吐き気・めまい・意識混濁などの症状を伴いますが、多くは無症状でMRIでのみ検出されます。
- 特にAPOE4保因者など特定の遺伝的背景を持つ方で発症リスクが高く、異常が認められた場合は投与中止や間隔調整など医師による判断が必要です。
また、輸注時に**注射反応(紅斑、寒気、吐き気)**が現れることも報告されています。
費用・保険適用
- ケサンラ®は2024年11月から薬価収載、同年12月以降に保険適用されています。
- 薬価は350 mg/20 mL瓶あたり66,948円で、1日薬価は8,560円です。
- 投与量に応じて、1回の点滴でおよそ14~15万円(患者自己負担額で3割負担の場合、1回あたり約4~5万円)となります。
ebinou.com - 年間薬剤費の目安は約308万円で、18か月全投与となるケースもあります。
ただし、高額療養費制度を申請すれば、実際の患者負担は大幅に軽減されます。例えば、**多数回該当(3回以上自己負担上限に到達)**で、以降の月の負担額はさらに低くなるケースがあります。
さらに、70歳以上や低所得世帯では月額自己負担上限が数万円台に抑えられる場合もあり、制度を活用すれば実質的な負担はかなり軽減されます。
まとめ(要点)
項目 | 内容 |
---|---|
適応 | 軽度認知障害/軽度アルツハイマー型認知症で、アミロイドβ蓄積あり |
薬理作用 | 抗アミロイドβ抗体により病因にアプローチ、進行を遅延 |
効果 | 症状ではなく進行抑制。臨床試験で最大35%の遅延、4~7か月の悪化遅延 |
投与・期間 | 月1回点滴、最大18回。ただし12か月でアミロイド除去なら終了可 |
副作用 | 主にARIA(浮腫・出血)、無症状も多くMRIでモニタ監視必要 |
費用 | 薬価約6.7万円/瓶、1回点滴自己負担約4~5万円、年間約308万円。高額療養費制度適用で負担減 |
ケサンラ®は、従来の対症療法薬とは異なり、**認知症自体の進行を抑えることを目的とした疾患修飾薬(DMT)**として登場しました。しかし効果には個人差があり、副作用リスクにも注意が必要です。専門医による厳格な適応判断と検査体制の整備が不可欠です。費用面では高額ですが、公的医療制度を活用することで、治療への現実的なアクセスも可能となります。
当院にてMRIや認知テスト(MMSE)および採血にて甲状腺機能、ビタミン測定し、適応ありと判断すれば提携病院(市立東大阪医療センター、東大阪生協病院、八尾こころのホスピタル)へ紹介状し受診予約をとらせていただきます。