「急に顔がゆがんだ」
「片方の手足に力が入らない」
「言葉が出てこない」
このような症状が突然現れた場合は、脳梗塞の可能性があります。
脳梗塞は時間との勝負です。
治療開始が早ければ早いほど、後遺症を軽くできる可能性が高くなります。
そのため、世界中で脳梗塞を疑うサインとして覚えていただきたいのがFAST(ファスト)です。
脳梗塞が疑われる症状があれば、ためらわずに救急要請を行ってください。
FASTとは?
FASTとは、脳梗塞を見つけるための簡単なチェック方法です。
F:Face(顔)
A:Arm(腕)
S:Speech(言葉)
T:Time(時間)
の頭文字をとっています。
F:Face(顔)
鏡を見たり、笑顔を作ってみてください。
次のような症状はありませんか?
- 顔の片側が下がる
- 口角が片方だけ下がる
- 笑顔が左右非対称になる
- 水が口からこぼれる
顔の麻痺は脳梗塞の代表的な症状です。
A:Arm(腕)
両腕を前に伸ばしてみましょう。
次のような症状はありませんか?
- 片腕だけ下がる
- 力が入らない
- 物を落とす
- 箸が持てない
- ボタンが留められない
片側の手足の麻痺は脳梗塞を強く疑います。
S:Speech(言葉)
会話をしてみましょう。
次のような症状はありませんか?
- ろれつが回らない
- 言葉が出ない
- 相手の言葉が理解できない
- 話している内容がおかしい
言語障害も脳梗塞の重要なサインです。
T:Time(時間)
FASTの中で最も重要なのが
Time(時間)
です。
FASTのどれか一つでも当てはまれば、
すぐに119番通報してください。
様子を見ることはおすすめできません。
なぜ時間が重要なの?
脳梗塞では、1分間に約190万個の神経細胞が失われると推定されています。
そのため、「少し様子を見よう」という判断が後遺症につながることがあります。
脳梗塞の治療には時間制限があります
脳梗塞では、血栓溶解療法(tPA静注療法)ー発症から4.5時間以内(適応条件あり)、血栓回収療法(機械的血栓回収術)ー発症から最大24時間以内でも適応となる場合がありますが、画像検査で救える脳組織が残っていることなど、厳密な条件があります。
つまり、早く病院へ到着するほど治療の選択肢が広がります。
FAST以外にも注意したい症状
次のような症状も脳梗塞の可能性があります。
- 急に片目が見えなくなった
- 急に視野が欠けた
- 急にふらつく
- 急に歩けなくなった
- 激しいめまい
- 飲み込みにくい
- 片側のしびれ
これらの症状でも救急受診が必要です。
一過性脳虚血発作(TIA)にも注意
症状が数分〜数十分で改善しても安心はできません。
これをTIA(一過性脳虚血発作)と呼びます。
TIAは「脳梗塞の前触れ」と考えられています。
TIA発症後は、
- 約10%が90日以内に脳梗塞を発症
- その約半数は48時間以内に発症
すると報告されています。
症状が治っても必ず医療機関を受診してください。
MRI検査の重要性
脳梗塞が疑われる場合には、MRI(特に拡散強調画像:DWI)は早期診断に非常に有用です。
MRIでは、
- 超急性期脳梗塞
- 古い脳梗塞
- 脳出血との鑑別
- 脳腫瘍
- その他の脳疾患
などを評価できます。
当院では院内MRIを備えており、症状に応じて迅速な評価を行っています。
※FAST陽性の場合や発症直後で脳梗塞が強く疑われる場合は、時間を優先し、速やかに救急搬送が必要です。
脳梗塞を予防するには
危険因子を管理することが重要です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 心房細動
- 喫煙
- 肥満
- 運動不足
- 過度の飲酒
生活習慣の改善と定期的な健康診断が予防につながります。
脳梗塞に関するデータ
- 日本では年間約20万人以上が新たに脳梗塞を発症すると報告されています。
- 脳卒中は要介護となる原因の上位を占めています。
- 神経細胞は1分間に約190万個失われると推定されています。
- tPA静注療法は発症4.5時間以内が基本的な適応時間です。
- TIA患者さんの約10%が90日以内に脳梗塞を発症し、その約半数は48時間以内に発症します。
Q&A
Q1. FASTとは何ですか?
脳梗塞を疑うためのチェック方法で、「Face・Arm・Speech・Time」の頭文字です。
Q2. 症状がすぐ治ったら大丈夫ですか?
いいえ。
TIAの可能性があり、早期に脳梗塞を発症する危険性があります。
Q3. FASTが一つだけでも119番した方がいいですか?
はい。
一つでも当てはまれば脳梗塞を疑い、救急要請をしてください。
Q4. MRI検査で脳梗塞は分かりますか?
MRIは急性期脳梗塞の診断に非常に有用です。
Q5. 脳梗塞は予防できますか?
高血圧や糖尿病などの危険因子を適切に治療し、生活習慣を改善することでリスクを減らすことができます。
参考文献(国内)
- 日本脳卒中学会.脳卒中治療ガイドライン2021〔2023年追補版を含む〕
- 日本脳卒中協会.FASTによる脳卒中啓発資料
- 日本神経学会.脳卒中診療ガイドライン
- 日本循環器学会.脳卒中予防に関するガイドライン
- 厚生労働省.脳卒中対策関連資料
参考文献(海外)
- American Heart Association / American Stroke Association. Guidelines for the Early Management of Acute Ischemic Stroke.
- European Stroke Organisation. Guidelines for Intravenous Thrombolysis.
- World Stroke Organization. Global Stroke Fact Sheet.
- Jeffrey L. Saver. Time Is Brain—Quantified. Stroke. 2006.
- American Heart Association. 2024 Guideline for the Primary Prevention of Stroke.
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 神経血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
大阪市・東大阪市・八尾市を中心に、脳卒中診療、頭痛外来、MRI検査、認知症外来、脳ドックに力を入れています。
脳梗塞は「時間との勝負」です。FASTのサインに気付いたら、ためらわずに119番通報してください。症状が軽くても、早期診断・早期治療が後遺症を減らす最も重要なポイントです。

