片頭痛の急性期治療について
片頭痛の治療というと、「頭痛が出たら痛み止めを飲む」というイメージを持っている方も多いと思います。
しかし、現在の片頭痛治療では、単に痛みを軽くするだけではなく、「できるだけ早く普段の生活に戻れること」が重要な治療目標になっています。
近年はNSAIDsやトリプタンだけでなく、ラスミジタン(レイボー)、さらにCGRP受容体拮抗薬であるリメゲパント(ナルティーク)など、急性期治療の選択肢が増えてきました。
今回は、片頭痛の急性期治療をあらためて見直してみましょう。
片頭痛の急性期治療の目的は「痛みを我慢すること」ではない
急性期治療の目的は、
- 頭痛を早く改善する
- 吐き気や光・音過敏を改善する
- 頭痛の再燃を減らす
- 仕事や家事に早く復帰する
ことです。
「薬を飲んだけれど少しマシになっただけ」
「結局その日は寝込んでしまう」
という状態であれば、現在の急性期治療が十分とはいえない可能性があります。
① NSAIDs・鎮痛薬
比較的軽い片頭痛では、
- ロキソプロフェン
- イブプロフェン
- ナプロキセン
- アセトアミノフェン
などが使用されます。
軽度〜中等度の発作では有効ですが、中等度〜重度の片頭痛では十分な効果が得られないことがあります。
市販の鎮痛薬を何度も追加している場合には、治療を見直すことが重要です。
② トリプタン
トリプタンは長年、片頭痛の代表的な急性期治療薬として使用されてきました。
セロトニン5-HT1B/1D受容体に作用し、片頭痛発作を抑えます。
代表的には、
- スマトリプタン
- ゾルミトリプタン
- リザトリプタン
- エレトリプタン
- ナラトリプタン
などがあります。
トリプタンは現在でも重要な治療選択肢です。
一方、「効かない」「一度効いてもまた痛くなる」「胸部症状などが気になる」という患者さんもいます。
その場合、すぐに「トリプタンは効かない」と判断するのではなく、服用タイミング、投与経路、薬剤の種類などを見直すことが重要です。
トリプタンは1種類で諦めない
トリプタンには複数の種類があり、患者さんによって効果が異なります。
あるトリプタンが効かなかったとしても、別のトリプタンでは十分に効くことがあります。
また、効果が不十分な場合には、患者さんによってNSAIDsとの併用が有効なこともあります。
つまり、「トリプタンが効かなかった」=「すべてのトリプタンが効かない」ではありません。
③ レイボー(ラスミジタン)
ラスミジタンは、5-HT1F受容体に作用する「ジタン」と呼ばれる薬です。
トリプタンとは異なり、血管収縮作用を治療機序としないことが特徴です。
そのため、トリプタンとは異なる選択肢として使用されます。
一方、
- めまい
- 眠気
- ふらつき
などがみられることがあり、服用後の運転制限にも注意が必要です。
④ ナルティーク(リメゲパント)
片頭痛急性期治療で新たな選択肢となったのが、CGRP受容体拮抗薬(ゲパント)です。
ナルティーク(リメゲパント)は、片頭痛に深く関係するCGRPの受容体を阻害することで発作を抑えます。
従来のトリプタンとは作用機序が異なり、血管収縮作用を治療機序としないことが大きな特徴です。
トリプタンが十分効かない方、使用しにくい方などにとって、新たな治療選択肢となります。
さらにリメゲパントは、急性期治療だけでなく片頭痛の発症抑制にも使用されるという特徴があります。
トリプタンとゲパント、どちらが優れている?
ここは非常に重要です。
新しい薬だから、「ゲパントの方がトリプタンより強い」とは単純にはいえません。
トリプタンは長年の実績があり、多くの患者さんで高い効果が期待できます。
一方、ゲパントには、
- 血管収縮作用を治療機序としない
- トリプタンが使いにくい患者さんでも選択肢になり得る
- 比較的忍容性が良い
- 薬剤使用過多による頭痛(MOH)を起こしにくい可能性が注目されている
などの特徴があります。
2026年のレビューでも、トリプタンとゲパントはそれぞれ重要な急性期治療として位置づけられ、直接比較によって一方が明確に優れているとはまだいえないとされています。
つまり重要なのは、
「どの薬が一番強いか」ではなく、「その患者さんにどの薬が最も合うか」
という考え方です。
急性期治療は「飲むタイミング」も重要
片頭痛治療では薬の種類だけでなく、いつ飲むかも重要です。
一般的には、片頭痛発作が始まり、頭痛がまだ軽いうちに適切な急性期治療を行うことで効果が得られやすくなります。
「限界まで我慢してから薬を飲む」
という方法は、かえって薬が効きにくくなることがあります。
前兆がある場合は?
閃輝暗点などの前兆がある片頭痛では、薬剤によって適切な服用タイミングが異なります。
特にトリプタンは、一般的には前兆だけの段階ではなく、頭痛が始まってから使用することが基本です。
患者さんごとの発作パターンを確認して服用タイミングを決めることが大切です。
「2時間後にどうなったか」を確認する
急性期治療を評価するときは、「効いた気がする」だけではなく、具体的に評価すると治療を改善しやすくなります。
例えば、
- 2時間後に痛みがなくなったか
- 日常生活に戻れたか
- 吐き気や光過敏も改善したか
- 頭痛が再燃しなかったか
- 追加の鎮痛薬が必要だったか
などを確認します。
これを頭痛日記に記録すると、自分に合う急性期治療が分かりやすくなります。
薬剤使用過多による頭痛(MOH)にも注意
急性期治療薬が効くからといって、頻繁に使用し続けてよいわけではありません。
急性期治療薬の使用頻度が増えると、薬剤使用過多による頭痛(MOH)につながることがあります。
「頭痛薬を飲む日が増えてきた」
「ほぼ毎週何度も薬を飲んでいる」
「薬を飲んでもすぐにまた頭痛が起こる」
という場合には、急性期治療だけを繰り返すのではなく、予防治療を検討する必要があります。
急性期治療から予防治療へ
片頭痛治療で重要なのは、急性期治療と予防治療を別々に考えすぎないことです。
急性期治療薬を頻繁に必要とする場合や、頭痛によって仕事・家事・学校生活への支障が大きい場合には、予防治療を組み合わせます。
現在では、
経口薬
- 従来の片頭痛予防薬
- アクイプタ
- ナルティーク
CGRP関連抗体薬
- エムガルティ
- アジョビ
- アイモビーグ
など、予防治療の選択肢も増えています。
「頭痛が起きたら薬を飲む」という治療から、「片頭痛に奪われる時間そのものを減らす」治療へ考え方を変えることが重要です。
Q&A
Q1. ロキソニンだけで片頭痛を治療してもいいですか?
軽い発作で十分な効果が得られている場合には選択肢になります。しかし、毎回効かない、何度も追加する、寝込んでしまう場合には治療の見直しをおすすめします。
Q2. トリプタンが効きません。もう使えませんか?
1種類が効かなくても、別のトリプタンへの変更、服用タイミングの見直し、NSAIDsとの併用などで改善する場合があります。
Q3. ナルティークはトリプタンより効きますか?
単純にどちらが優れているとはいえません。効果、安全性、既往歴、これまでの治療反応などを考慮して選択します。
Q4. 頭痛薬は我慢してから飲んだ方がいいですか?
一般的には、片頭痛と分かった発作では頭痛が軽いうちに適切な急性期治療を行うことが重要です。
Q5. 急性期治療薬を頻繁に使っています。大丈夫ですか?
使用頻度が多い場合にはMOHや片頭痛の慢性化に注意が必要です。急性期治療を見直すとともに、予防治療を検討します。
まとめ|「何を飲むか」から「どうすれば普段の生活に戻れるか」へ
片頭痛の急性期治療は大きく変化しています。
NSAIDsやトリプタンは現在も重要な治療ですが、レイボーやナルティークなど、作用機序の異なる薬が登場したことで選択肢が広がりました。
大切なのは新しい薬を使うこと自体ではありません。
「自分の片頭痛に合った薬を、適切なタイミングで使用し、できるだけ早く普段の生活へ戻ること」
が急性期治療の目標です。
「薬を飲んでも効かない」
「頭痛が再発する」
「副作用で薬を使いにくい」
「頭痛薬を飲む回数が増えている」
という方は、一度急性期治療そのものを見直してみましょう。
参考文献
- 日本頭痛学会.頭痛の診療ガイドライン2021
- International Headache Society. International Classification of Headache Disorders, 3rd edition(ICHD-3)
- Acute Treatment of Migraine. Continuum. 2024.
- Integrating gepants into clinical practice for the acute treatment of migraine. Headache. 2026.
- Migraine treatment consensus document. Neurologia. 2024.
- PMDA.ナルティークOD錠75mg 添付文書
この記事を執筆・監修した医師
三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
資格
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
脳卒中・頭痛・認知症などの脳神経疾患を中心に診療しています。

