片頭痛の最新の知見
「CGRPの次に注目されているPACAPとは何ですか?」
「片頭痛の原因はCGRPだけではないの?」
「PACAPを標的にした新しい治療薬はありますか?」
近年、片頭痛研究は大きく進歩し、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした治療薬が広く使用されるようになりました。
しかし、CGRP関連薬を使用しても十分な効果が得られない患者さんもいます。
そこで現在、世界中で注目されているのが
PACAP(Pituitary Adenylate Cyclase-Activating Polypeptide:下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド)です。
舌を嚙み切りそうな名称ですが、PACAPはCGRPと並ぶ片頭痛の重要な神経ペプチドとして研究が進められており、新しい治療薬の開発も進んでいます。
今回は、PACAPと片頭痛の関係について、最新の研究をもとに頭痛外来・脳神経外科の視点からわかりやすく解説します。
PACAPとは?
PACAPは1989年に発見された神経ペプチドです。
脳内では、
- 視床下部
- 三叉神経節
- 三叉神経核
- 自律神経
- 脳血管周囲
などに広く存在しています。
本来は、
- 血管調節
- 自律神経調節
- 睡眠
- ホルモン分泌
- 神経保護
などに重要な役割を果たしています。
PACAPはなぜ片頭痛に関係するの?
PACAPは片頭痛発作時に、
- 三叉神経系
- 脳血管
- 視床下部
を刺激します。
その結果、
- 血管拡張
- 神経原性炎症
- 痛み伝達増強
が起こり、片頭痛発作へ進行すると考えられています。
PACAPは頭痛を起こすことが証明されている
臨床研究では、PACAP38を静脈投与すると、片頭痛患者さんの約55~75%で片頭痛発作が誘発されることが報告されています。
これはCGRPと同様に、「PACAPが片頭痛の原因物質である」ことを示す重要な根拠となっています。
PACAPとCGRPはどう違う?
現在の研究では、
片頭痛発作は
PACAP
↓
視床下部・自律神経系活性化
↓
三叉神経刺激
↓
CGRP放出
↓
血管拡張
↓
神経炎症
↓
片頭痛
という流れが考えられています。
つまり、PACAPはCGRPよりさらに上流で働いている可能性があります。
PACAPと予兆の関係
近年最も注目されているのが、片頭痛の予兆(Premonitory symptoms)との関係です。
PACAPは視床下部に多く存在するため、頭痛の数時間〜2日前から起こる
- あくび
- 眠気
- 食欲変化
- 頻尿
- 気分変化
などに関与している可能性があります。
PACAPと睡眠
PACAPは
- 睡眠
- 概日リズム
- メラトニン
とも関係しています。
片頭痛患者さんでは、
- 睡眠不足
- 寝過ぎ
- 時差
で頭痛が起こることがありますが、その背景にもPACAPが関与している可能性が研究されています。
PACAPと光過敏
PACAPは、網膜から視床下部へ向かう神経にも存在します。
そのため、
- 光過敏
- まぶしさ
- ブルーライトへの過敏
などとの関連も注目されています。
PACAPを標的にした新しい治療薬
現在、PACAPやPAC1受容体を標的とした治療薬の臨床試験が進められています。
初期の開発では期待どおりの結果が得られなかった薬剤もありますが、PACAP経路を標的とした新たな抗体薬や受容体拮抗薬の研究は現在も継続されています。
将来的には、CGRP関連薬で十分な効果が得られない患者さんへの新しい選択肢となることが期待されています。
現時点で日本で使用できるCGRP関連治療薬には、
注射薬
- エムガルティ
- アジョビ
- アイモビーグ
内服薬
- アクイプタ
- ナルティーク
があります。
頭痛外来では、患者さん一人ひとりに合わせた予防治療を行っています。
MRI検査が重要な理由
PACAPが関与する片頭痛であっても、危険な二次性頭痛を除外することが重要です。
頭痛外来や脳神経外科では、
- 初めての強い頭痛
- 神経症状を伴う頭痛
- SNOOP10に該当する頭痛
ではMRI検査を行います。
MRIでは、
- 脳腫瘍
- 脳卒中
- 脳動脈瘤
- 脳静脈洞血栓症
- RCVS
などを確認します。
PACAP研究の今後
PACAP研究は現在も急速に進歩しています。
新しい抗PACAP抗体薬が開発され、片頭痛治療に新たな活路が見いだせるかもしれません。
片頭痛診療は、CGRPに続く新しい時代へ進もうとしています。
PACAPに関するデータ
- 日本の片頭痛患者数:約840万人
- 女性有病率:約12%
- PACAP38投与で約55~75%に片頭痛発作が誘発
- PACAPは視床下部・三叉神経・脳血管に豊富に存在
- CGRP関連薬で十分な効果が得られない患者さんが一定数存在し、新規治療標的としてPACAPが研究されている
Q&A
Q1. PACAPとは何ですか?
片頭痛発症に関与すると考えられている神経ペプチドです。
Q2. CGRPとの違いは何ですか?
CGRPは現在の主要な治療標的ですが、PACAPはそのさらに上流の神経ネットワークに関与している可能性があります。
Q3. PACAPを標的とした薬は使えますか?
現時点(2026年)では日本で承認されたPACAP標的薬はなく、研究・開発が進められています。
Q4. MRI検査は必要ですか?
危険な二次性頭痛を除外するため、症状によってはMRI検査を行います。
Q5. 頭痛外来ではPACAPについて相談できますか?
はい。
最新の研究動向も踏まえながら、現在利用可能な最適な治療法をご提案します。
参考文献(国内)
- 日本頭痛学会.頭痛の診療ガイドライン2021
- 日本頭痛学会誌.片頭痛の病態生理
- 日本神経学会.慢性頭痛診療ガイドライン
- 日本神経治療学会.頭痛診療指針
- 日本頭痛学会.CGRP関連治療薬適正使用指針
参考文献(海外)
- Messoud Ashina, et al. PACAP38 Induces Migraine Attacks in Patients With Migraine. Brain. 2014.
- Peter J. Goadsby, et al. Migraine. Nature Reviews Disease Primers. 2017.
- Lars Edvinsson. The Journey to Establish CGRP as a Migraine Target and the Emerging Role of PACAP. The Lancet Neurology.
- American Headache Society. Research Updates on PACAP and Migraine.
- International Headache Society. Advances in Migraine Pathophysiology.
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 神経血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
大阪市・東大阪市・八尾市を中心に、頭痛外来、MRI検査、脳卒中診療、認知症外来、脳ドックに力を入れています。
片頭痛は病態の解明が急速に進んでいる分野です。当院では最新の研究成果も踏まえながら、一人ひとりの患者さんに合わせた診断と治療をご提案しています。お気軽に頭痛外来へご相談ください。

