働き盛りの女性に多い片頭痛
片頭痛は決して珍しい病気ではありません。
日本の代表的な全国調査では、15歳以上の片頭痛有病率は8.4%と報告されています。つまり、日本人の約12人に1人が片頭痛を抱えている計算です。(Sage Journals)
さらに重要なのは、片頭痛が単に「頭が痛いだけの病気」ではないことです。
片頭痛は特に20~40歳代の働き盛り・子育て世代に多く、仕事、家事、育児、学業などに大きな影響を与えます。
世界的にも片頭痛は、若年~中年世代における主要な「生活障害」の原因となっています。(PubMed Central (PMC))
今回は、片頭痛の有病率、好発年齢、男女差、仕事への影響、そして日本社会全体に与える経済的損失について、頭痛外来・脳神経外科の視点から詳しく解説します。
日本人の片頭痛有病率は8.4%
日本で行われた代表的な全国調査では、15歳以上の4,029人を対象として片頭痛の有病率が調査されました。
その結果、日本人の片頭痛有病率:8.4%と報告されています。
内訳は、
- 前兆のない片頭痛:5.8%
- 前兆のある片頭痛:2.6%
でした。(PubMed)
つまり、日本では片頭痛は決して珍しい病気ではありません。
女性に多いのが片頭痛の特徴
片頭痛は男性よりも女性に多いことが知られています。
日本の全国調査では、
- 男性:約3.6%
- 女性:約13%
- 全体:約8.4%
と報告されています。(Wiley Online Library)
つまり、女性では約8人に1人が片頭痛を持っている計算になります。
女性に多い理由の一つとして、女性ホルモン(エストロゲン)の変動が考えられています。
特に、
- 月経
- 妊娠・出産
- 更年期
- 経口避妊薬
などと片頭痛には密接な関係があります。
片頭痛は何歳に多い?
片頭痛は子どもから高齢者まで起こりますが、特に多いのは若年~中年成人です。
日本では30~39歳頃に有病率が高いことが報告されています。(J-STAGE)
つまり、仕事・家事・育児など、社会的に最も活動量の多い年代に片頭痛が集中しているという点が非常に重要です。
なぜ女性の30~40歳代に多い?
女性では思春期以降に片頭痛が増加します。
その背景には、エストロゲンが大きく関係しています。
エストロゲンの変動は、
- 三叉神経
- セロトニン
- CGRP
- 痛覚ネットワーク
などに影響すると考えられています。
特に月経直前のエストロゲン低下によって誘発される月経関連片頭痛は、通常の片頭痛より持続時間が長く、治療抵抗性となることがあります。
世界的にも片頭痛は非常に大きな問題
Global Burden of Disease(GBD)の解析では、片頭痛は世界的にみても生活障害の非常に大きな原因です。
GBD 2019では、片頭痛は全年齢・男女を合わせたYLD(Years Lived with Disability:障害を抱えて生活する年数)の原因として世界第2位でした。
さらに15~49歳の女性では、片頭痛がYLDの原因第1位となっています。(PubMed Central (PMC))
片頭痛は命を直接奪うことが多い病気ではありません。
しかし、「痛みによって健康な生活時間を奪う」という観点では、世界的に極めて負担の大きい疾患なのです。
片頭痛の本当の問題は「生活への支障」
日本の全国調査では、片頭痛患者さんの74.2%が日常生活に大きな支障を感じていると回答しています。(PubMed)
片頭痛発作では、
- 強い頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 光過敏
- 音過敏
- 臭い過敏
- 集中力低下
などが起こります。
そのため、「頭痛はあるけれど普通に働けばいい」という病気ではありません。
片頭痛による社会的損失とは?
片頭痛による経済的損失には、大きく2種類あります。
① Absenteeism(アブセンティーイズム)
頭痛のために、
- 会社を休む
- 遅刻する
- 早退する
など、仕事そのものができないことによる損失です。
② Presenteeism(プレゼンティーイズム)
こちらが片頭痛では特に重要です。
会社には来ているけれど、頭痛のため本来の能力を発揮できない状態を意味します。
例えば、「出勤はしたものの、頭が痛くて仕事が半分しか進まない」という状態です。
日本では「出勤しているけれど働けない」損失が大きい
日本人を対象としたOVERCOME Japan研究では、片頭痛患者さんの仕事への影響を調査しています。
その結果、片頭痛による仕事への影響は大きく、特にpresenteeism(出勤しているものの生産性が低下する状態)が重要であることが示されました。(PubMed)
頭痛頻度が増えるほど影響は大きくなり、presenteeismによる労働時間への影響は約30~50%に達する群もありました。(PubMed)
片頭痛による日本の経済損失はどのくらい?
日本企業の従業員を対象とした研究では、片頭痛によるpresenteeismの生産性損失を日本全体に外挿すると、
年間約213億米ドル(=約3.4兆円)に相当すると推計されました。(PubMed)
為替によって日本円換算額は変動しますが、数兆円規模になり得る非常に大きな社会的損失です。
しかも、片頭痛の経済的損失は「会社を休むこと」だけではありません。
むしろ、頭痛を我慢して出勤していることによる生産性低下が大きな割合を占めます。
片頭痛患者さん1人あたりでも大きな損失
日本のNational Health and Wellness Surveyを用いた研究では、月4日以上頭痛がある片頭痛患者さんで、
- 欠勤による損失:6.4%
- presenteeism:40.2%
- 総労働生産性低下:44.3%
と報告されています。
また年間の間接費用は、片頭痛群で約149万円、対照群で約81万円でした。(PubMed)
片頭痛を適切に治療することは、患者さん本人のQOLだけでなく、社会全体にとっても重要なのです。
頭痛発作がない日にも片頭痛の影響は続く
近年注目されているのが、Interictal burden(発作間欠期負担)です。
つまり、頭痛が起きていない日にも、
「明日また頭痛が起きたらどうしよう」
「旅行中に頭痛が起きたら困る」
「大切な仕事の日に発作が来るかもしれない」
という不安によって行動が制限されることがあります。
日本のOVERCOME研究では、41.5%が中等度~重度の発作間欠期負担を経験していました。(PubMed)
片頭痛は「頭痛がある時間だけ」の病気ではないのです。
それでも頭痛外来を受診していない人が多い
日本の全国調査では、69.4%の片頭痛患者さんが頭痛について医療機関を受診したことがありませんでした。
さらに、自分の頭痛が片頭痛だと認識していた人は11.6%にすぎず、56.9%が市販薬のみを使用していました。(PubMed)
より新しいOVERCOME Japan研究でも、片頭痛・強い頭痛について医療機関を受診した経験がある人は57.4%にとどまり、予防薬を使用している人も少ないことが示されています。(PubMed)
「頭痛くらいで病院へ行く必要はない」は間違いです
片頭痛は、適切に診断して治療することで改善できる疾患です。
現在の頭痛外来では、
急性期治療
- NSAIDs
- トリプタン
- ラスミジタン
- ゲパント
予防治療
- アクイプタ
- ナルティーク
- エムガルティ
- アジョビ
- アイモビーグ
- 従来型予防薬
など、多くの治療選択肢があります。
特にCGRPを標的とした治療の登場によって、片頭痛治療は大きく進歩しています。
MRI検査が必要な頭痛もあります
すべての頭痛が片頭痛とは限りません。
特に、
- 突然発症した激しい頭痛
- 今までと違う頭痛
- 徐々に悪化する頭痛
- 手足の麻痺やしびれを伴う
- ろれつが回らない
- 意識障害を伴う
- 50歳以降に初めて発症した頭痛
などでは、脳神経外科や頭痛外来での評価が重要です。
必要に応じてMRI・MRA検査を行い、
- 脳腫瘍
- 脳梗塞
- 脳動脈瘤
- 脳静脈洞血栓症
- その他の二次性頭痛
などを除外します。
Q&A
Q1. 日本では片頭痛は何人に1人ですか?
日本の代表的な全国調査では有病率8.4%で、約12人に1人です。女性では約13%とさらに高くなります。
Q2. 片頭痛は何歳くらいに多いですか?
幅広い年代で起こりますが、日本では30~39歳頃に有病率が高く、働き盛りの世代に多いことが特徴です。
Q3. 女性に多いのはなぜですか?
遺伝的要因などに加えて、エストロゲンなどの女性ホルモンの変動が片頭痛の発症に関係すると考えられています。
Q4. 片頭痛は仕事にも影響しますか?
大きく影響します。欠勤だけでなく、出勤していても十分な能力を発揮できないpresenteeismによる損失が特に重要です。
Q5. 頭痛外来を受診するメリットはありますか?
あります。片頭痛の診断を行い、必要に応じてMRI検査で危険な二次性頭痛を除外したうえで、急性期治療や予防治療を組み合わせることができます。
まとめ|片頭痛は「我慢する頭痛」ではありません
片頭痛は日本人の約12人に1人が抱える身近な疾患です。
特に20~40歳代の社会的に活動性の高い世代に多く、女性ではさらに高頻度に認められます。
そして片頭痛の問題は「痛み」だけではありません。
仕事、家事、育児、学業、予定、人間関係など、患者さんの生活全体に影響します。
さらに、日本全体で考えると数兆円規模になり得る労働生産性損失が推計されており、片頭痛は重要な社会的課題でもあります。(PubMed)
参考文献【国内・日本人データ】
- Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17:15-22. (PubMed)
- Kikui S, et al. Burden of migraine among Japanese patients: a cross-sectional National Health and Wellness Survey. J Headache Pain. 2020. (PubMed)
- Takeshima T, et al. Comprehensive population-based survey of migraine in Japan: OVERCOME (Japan). Curr Med Res Opin. 2021. (PubMed)
- Shimizu T, et al. Disability, quality of life, productivity impairment and employer costs of migraine in the workplace. J Headache Pain. 2021. (PubMed)
- 日本頭痛学会.頭痛の診療ガイドライン2021.
参考文献【海外】
- Steiner TJ, et al. Migraine remains second among the world’s causes of disability, and first among young women: findings from GBD2019. J Headache Pain. 2020. (PubMed Central (PMC))
- International Headache Society. International Classification of Headache Disorders, 3rd edition(ICHD-3).
- GBD 2019 Diseases and Injuries Collaborators. Global burden of diseases and injuries.
- World Health Organization. Headache disorders.
- Goadsby PJ, et al. Migraine. N Engl J Med / Nat Rev Dis Primers.
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
資格
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 神経血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
大阪市・東大阪市・八尾市を中心に、頭痛外来、片頭痛治療、MRI検査、脳卒中診療、認知症外来、脳ドックに力を入れています。
頭痛によって仕事や家事、学校生活に支障が出ている方は、「頭痛だから仕方がない」と我慢せず、当院の頭痛外来へお気軽にご相談ください。

