アルツハイマー型認知症の内服薬について
「認知症の薬は本当に効くの?」
「薬を飲んでいるのに、物忘れが進んでいる」
「認知症の薬はいつまで続けるべき?」
認知症外来では、このような質問をいただくことがあります。
近年、アルツハイマー病に対するレケンビやケサンラなど抗アミロイドβ抗体薬が登場し、認知症治療は新たな時代を迎えています。
一方、従来から使用されている内服薬も、現在の認知症診療において重要な役割を担っています。
今回は、アルツハイマー型認知症に対する従来の薬物治療を改めて見直し、薬剤の特徴や使い分け、継続・中止の考え方について解説します。
1.認知症の内服薬は何を目的に使用する?
アルツハイマー型認知症の従来の治療薬は、主に症状の改善や進行に伴う機能低下の緩和を目的とした対症療法です。
残念ながら、これらの薬剤によってアルツハイマー病そのものを治癒させることはできません。
しかし、患者さんによっては、
- 認知機能の維持・改善
- 日常生活機能の維持
- 意欲や活動性の改善
- 家族の介護負担の軽減
などが期待できます。
重要なのは、「物忘れが完全になくなること」だけが治療効果ではないという点です。
2.アルツハイマー型認知症の治療薬は大きく2種類
従来の認知症治療薬は、作用機序によって2種類に分類されます。
① コリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー型認知症では、記憶や学習に関係するアセチルコリンという神経伝達物質の働きが低下します。
コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンの分解を抑えることで神経伝達を補います。
代表的な薬剤は、
- ドネペジル(アリセプト)
- ガランタミン(レミニール)
- リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチ)
です。
② NMDA受容体拮抗薬
メマンチン(メマリー)が代表的です。
グルタミン酸による過剰なNMDA受容体活性を調整することで、神経機能への悪影響を軽減すると考えられています。
主に中等度から高度のアルツハイマー型認知症に使用します。
ドネペジル(アリセプト)
最も広く使用されている認知症治療薬の一つです。
軽度から高度まで幅広い病期で使用でき、1日1回の服用で済むことが特徴です。
一方、吐き気、食欲低下、下痢、徐脈などに注意が必要です。
また、一部の患者さんでは不眠、興奮、易怒性などが問題になることがあります。
ガランタミン(レミニール)
アセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加え、ニコチン性アセチルコリン受容体への作用を持つ薬剤です。
軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に使用します。
副作用として、吐き気、食欲低下、徐脈などがあります。
リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチ)
貼付剤で治療できることが大きな特徴です。
内服管理が難しい患者さんでも、ご家族などが貼付を確認しやすい利点があります。
ただし、貼付部位の皮膚炎や、吐き気・食欲低下などに注意が必要です。
メマンチン(メマリー)
中等度から高度のアルツハイマー型認知症に使用します。
コリンエステラーゼ阻害薬とは作用機序が異なるため、病状に応じて併用することもあります。
副作用として、めまい、眠気、便秘、混乱などがみられることがあります。
特に腎機能が低下している患者さんでは、投与量の調整が必要です。
4.認知症の薬を飲んでいるのに進行するのはなぜ?
認知症の薬を服用していても、物忘れが徐々に進行することがあります。
これは、従来の内服薬がアルツハイマー病の原因病態そのものを取り除く薬ではないためです。
ただし、認知機能が低下したからといって、薬がまったく効いていなかったとは限りません。
薬を使用しなかった場合と比較して、認知機能や日常生活機能の低下が緩やかになっている可能性もあります。
そのため、治療効果はMMSEなどの認知機能検査だけでなく、
- 日常生活でできること
- 意欲や活動性
- 食事や睡眠
- 行動・心理症状
- ご家族の介護負担
などを総合的に評価することが大切です。
5.認知症の薬は変更・併用できる?
現在使用している薬剤で副作用が強い場合や、効果が不十分な場合には、薬剤の変更を検討することがあります。
例えば、ドネペジルで消化器症状が問題となる場合には、別のコリンエステラーゼ阻害薬への変更を検討します。
また、中等度から高度のアルツハイマー型認知症では、コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用が選択肢になります。
ただし、薬剤を増やせば必ず効果が高まるわけではありません。
副作用、併用薬、身体状態、生活への影響を考慮して判断する必要があります。
6.認知症の薬はいつまで続けるべき?
認知症が進行した場合、「もう薬を飲んでも意味がないのでは?」と考えることがあります。
しかし、認知症が重度になったという理由だけで、一律に薬を中止することは推奨されません。
一方で、
- 明らかな副作用がある
- 食欲低下や体重減少が続く
- 徐脈や失神がみられる
- 服薬そのものが大きな負担になっている
- 治療目標に照らして利益が乏しい
といった場合には、減量や中止を検討します。
中止によって認知機能や行動症状が悪化する場合もあるため、医師の管理のもとで慎重に判断します。
7.抗アミロイドβ抗体薬が登場した現在、内服薬は必要?
近年、レカネマブ(レケンビ)やドナネマブ(ケサンラ)など、アルツハイマー病の原因病態に働きかける治療薬が登場しました。
これらは、主にアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)や軽度認知症のうち、適応条件を満たす患者さんが対象となります。
一方、従来の内服薬は、認知機能や日常生活機能を支える対症療法として引き続き重要です。
新しい治療薬と従来の内服薬は、役割が異なります。
病期や患者さんの状態に応じて、それぞれの治療を適切に組み合わせることが大切です。
よくある質問(Q&A)
Q1.アルツハイマー型認知症の薬で物忘れは治りますか?
従来の内服薬で病気そのものを治すことはできませんが、認知機能や日常生活機能の維持・改善が期待できます。
Q2.アリセプトとメマリーはどちらがよいですか?
作用機序と主な適応病期が異なります。ドネペジルは軽度から高度、メマンチンは中等度から高度で使用され、病状によっては併用します。
Q3.認知症の薬で興奮や怒りっぽさが強くなることはありますか?
薬剤によっては興奮や不眠などが現れる場合があります。ただし、認知症そのものの症状や身体的不調、環境要因でも起こるため、原因を総合的に評価することが重要です。
Q4.認知症が進行したら薬を中止してもよいですか?
進行したという理由だけで一律に中止することは推奨されません。効果、副作用、生活状況を確認し、主治医と相談して判断します。
Q5.認知症の薬を飲み始めたら、どれくらいで効果が分かりますか?
通常は数週間から数か月かけて評価します。認知機能検査だけでなく、日常生活や行動面の変化も確認します。
まとめ|認知症の内服薬は「処方して終わり」ではありません
アルツハイマー型認知症の内服薬には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどがあります。
それぞれ作用機序や適応病期、副作用が異なるため、患者さんの状態に合わせた選択が重要です。
また、認知症治療では薬を処方することだけが目的ではありません。
「薬が本当に患者さんの生活を支えているか」
という視点から、定期的に治療を見直す必要があります。
東大阪みき脳神経外科クリニックでは、認知症外来において認知機能検査やMRIなどによる評価を行い、薬物治療に加えて介護保険や地域の医療・福祉サービスとの連携も大切にしています。
大阪市・東大阪市・八尾市で、認知症の診断や治療、現在服用している薬についてお悩みの方はご相談ください。
参考文献
- 日本神経学会監修.認知症疾患診療ガイドライン2017.医学書院.
- 厚生労働省.認知症の診療・ケアに関する資料.
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NG97.
- Birks JS, Harvey RJ. Donepezil for dementia due to Alzheimer’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2018.
- McShane R, et al. Memantine for dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2019.
- Howard R, et al. Donepezil and memantine for moderate-to-severe Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2012;366:893–903.
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
資格
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 神経血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会

