認知症において非常に厄介な症状 BPSD
「認知症の家族が怒りっぽくなった」
「介護を拒否するようになった」
「夜中に興奮して眠らない」
「幻覚や妄想が強く、介護が難しい」
このような症状は、認知症に伴うBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)と呼ばれます。
BPSDは患者さん本人だけでなく、ご家族や介護者の負担を大きく増やす原因となり、結果として本人、家族とも疲弊してしまいます。
近年、このBPSDに対する新たな治療薬として注目されているのがレキサルティ®(一般名:ブレクスピプラゾール)です。
今回は、レキサルティの特徴、有効性、安全性、どのような患者さんに適しているのかを解説します。
BPSDとは?
BPSDとは、認知症による記憶障害だけではなく、行動や精神面に現れる症状の総称です。
代表的な症状は、
- 興奮
- 易怒性
- 暴言・暴力
- 徘徊
- 妄想
- 幻覚
- 不眠
- 不安
- 抑うつ
- 介護拒否
などです。
アルツハイマー型認知症患者さんの約80〜90%が経過中に何らかのBPSDを経験すると報告されています。
BPSDはなぜ起こる?
BPSDは単純に「認知症だから起こる」のではありません。
複数の要因が重なって発症します。
脳の変化
- 前頭葉機能低下
- 側頭葉障害
- 扁桃体機能異常
神経伝達物質の異常
- ドパミン
- セロトニン
- ノルアドレナリン
- アセチルコリン
のバランスが崩れることが関与します。
環境要因
- 入院
- 引っ越し
- 睡眠不足
- 疼痛
- 感染症
- 便秘
- 脱水
などもBPSDを悪化させます。
レキサルティとは?
レキサルティ(ブレクスピプラゾール)は、セロトニン5-HT1A受容体部分作動薬、ドパミンD2受容体部分作動薬という特徴を持つ非定型抗精神病薬です。
日本では
- 統合失調症
- うつ病(補助療法)
に加え、
アルツハイマー型認知症に伴うBPSDの一部(興奮・易刺激性・易怒性など)に対しても使用されています。
レキサルティはどのような症状に効果がある?
臨床試験では、
- 興奮
- 易怒性
- 攻撃性
- 暴言
- 落ち着きのなさ
などの改善が確認されています。
特に介護負担の軽減につながることが期待されています。
臨床試験の結果
国際共同第Ⅲ相試験では、
ブレクスピプラゾール投与群はプラセボ群と比較して、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)の改善が有意に認められました。
改善は投与開始から数週間で現れ始め、12週間時点で統計学的に有意な差が示されています。
なぜ効果があるの?
レキサルティは、ドパミンを過度に抑えるのではなく、必要な部分だけを調整する「部分作動薬」です。
さらに、セロトニン作用によって
- 不安
- 興奮
- イライラ
を穏やかに改善すると考えられています。
そのため、従来の抗精神病薬より錐体外路症状(手の震え、筋肉のこわばりなど)が少ないとされています。
使用する前に大切なこと
BPSDを認めた場合でも、まず原因を確認することが重要です。
例えば、
- 尿路感染症
- 肺炎
- 脱水
- 便秘
- 疼痛
- 睡眠障害
- 環境の変化
などを改善するだけで症状が落ち着くこともあります。
そのため、非薬物療法や原因検索が第一選択です。
薬物療法は、症状が強く本人や周囲の安全が保てない場合や、介護負担が著しい場合などに検討されます。
副作用
比較的安全性は高いとされていますが、以下の副作用には注意が必要です。
- 傾眠
- 転倒
- アカシジア(じっとしていられない感じ)
- 錐体外路症状(手の震え、筋肉のこわばり、動作の緩慢)
- 体重増加
また、高齢者では少量から開始し、慎重に増量することが重要です。
認知症外来で行う診療
当院では、
- 詳細な問診
- MMSEなどの認知機能評価
- MRI検査
- 血液検査
- BPSDの評価
- ご家族からの聞き取り
を行い、症状の原因を総合的に判断します。
必要に応じて、
- コリンエステラーゼ阻害薬
- メマンチン
- レキサルティ
などを組み合わせた治療をご提案します。
レキサルティに関するデータ
- 認知症患者さんの約80〜90%が経過中にBPSDを経験
- BPSDは施設入所や介護負担増加の主要因
- ブレクスピプラゾールはCMAIスコアを有意に改善
- 投与開始数週間で改善がみられることがある
- 非薬物療法を併用することでより良い治療効果が期待されます
Q&A
Q1. BPSDとは何ですか?
認知症に伴う興奮、妄想、不安、暴言、徘徊などの行動・心理症状です。
Q2. レキサルティは認知症そのものを治しますか?
いいえ。
認知機能を改善する薬ではなく、BPSDの一部の症状を軽減することを目的としています。
Q3. すべての認知症患者さんに必要ですか?
いいえ。
まずは環境調整や原因検索などの非薬物療法を行い、必要な場合に薬物療法を検討します。
Q4. 効果はどれくらいで現れますか?
個人差がありますが、数週間程度で改善がみられることがあります。
Q5. MRI検査は必要ですか?
認知症の種類やBPSDの背景に他の脳疾患がないかを確認するため、MRI検査は重要です。
参考文献(国内)
- 日本認知症学会.認知症疾患診療ガイドライン2021
- 日本神経学会.認知症診療ガイドライン
- レキサルティ® 添付文書
- レキサルティ® インタビューフォーム
- 日本老年精神医学会.BPSD診療ガイドライン
参考文献(海外)
- Pierre N. Tariot, et al. Brexpiprazole for Agitation in Alzheimer’s Dementia. New England Journal of Medicine. 2023.
- Alzheimer’s Association. Dementia Care Practice Recommendations.
- American Psychiatric Association. Practice Guideline on the Use of Antipsychotics in Dementia.
- European Academy of Neurology. Guideline on Dementia Management.
- International Psychogeriatric Association. BPSD Management Recommendations.
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 神経血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
大阪市・東大阪市・八尾市を中心に、認知症外来、MCI診療、MRIによる認知症評価、BPSD診療に力を入れています。
認知症のBPSDは、ご本人だけでなくご家族の生活にも大きな影響を与えます。当院では原因を丁寧に評価し、非薬物療法と薬物療法を適切に組み合わせ、一人ひとりに合わせた治療をご提案しています。

