妊婦に対するMRI検査
「妊娠中にMRIを受けても赤ちゃんは大丈夫?」
「妊娠初期はMRIを避けた方がいい?」
このような不安を持つ方は少なくありません。
結論からいうと、妊娠中だからMRIを一律に受けられないわけではありません。
MRIはCTやレントゲンとは異なり、X線を使用しません。そのため、MRI検査による放射線被ばくはありません。
医学的に必要な場合には、妊娠中でもMRI検査が行われます。
妊娠初期のMRIは大丈夫?
妊娠初期は胎児の臓器が形成される重要な時期です。
そのため、「妊娠初期のMRIは危険なのでは?」と心配される方もいます。
この点について参考になるのが、2016年にJAMAに報告された大規模研究です。
カナダ・オンタリオ州の1,424,105件の妊娠を解析し、妊娠初期にMRIを受けた1,737例と、MRIを受けなかった約141万例を比較しました。
その結果、妊娠初期にMRIを受けたグループでは、
- 先天異常
- 小児期の腫瘍
- 視覚障害
- 聴覚障害
について、調整後の解析で明確なリスク増加は認められませんでした。(JAMA Network)
死産・新生児死亡のデータは?
同じ研究では、妊娠初期にMRIを受けた1,737例のうち、死産または新生児死亡は19例でした。
MRIを受けていない群と比較した調整後相対リスクは、RR 1.68(95%信頼区間 0.97〜2.90)でした。
95%信頼区間が1をまたいでおり、統計学的に明確なリスク上昇は示されませんでした。(JAMA Network)
この研究からも、妊娠初期の非造影MRIによる明確な胎児への有害作用は確認されていないと考えられています。
ただし、「MRIなら何の制限もなく受けてよい」という意味ではなく、医学的な必要性を考えて検査を行います。
胎児の発育や聴力への影響は?
1.5テスラMRIを妊娠中に受けた胎児を調べた研究では、MRIを受けた751人の新生児と、MRIを受けていない10,042人が比較されています。
この研究では、胎児期のMRI曝露による、
- 出生体重への悪影響
- 新生児の聴覚障害
について明確な増加は認められませんでした。(PubMed)
MRI検査では撮影中に大きな音がしますが、通常の診断用MRIが胎児の聴覚障害を増加させるという明確な証拠は現在のところ示されていません。
造影MRIは別に考える必要があります
妊娠中のMRIで特に注意が必要なのが、ガドリニウム造影剤です。
ガドリニウム造影剤は胎盤を通過して胎児側へ移行します。
そのため、米国放射線学会(ACR)は、妊娠中にガドリニウム造影剤をルーチンで使用すべきではないとしています。(アメリカ放射線学会)
ガドリニウム造影MRIのデータ
先ほどの約142万件の妊娠を対象とした研究では、妊娠中にガドリニウム造影MRIを受けた397例が解析されています。
ガドリニウム曝露群では、死産または新生児死亡が7例認められ、
調整後RR 3.70
95%信頼区間 1.55〜8.85
と報告されました。
また、出生後のリウマチ性・炎症性・浸潤性皮膚疾患をまとめた評価でも、
HR 1.36
95%信頼区間 1.09〜1.69
と増加が報告されています。(JAMA Network)
ただし、この研究は観察研究であり、造影MRIを必要とした母体側の病気などの影響を完全に除外できない可能性があります。
したがって、「ガドリニウムを使うと必ず胎児に問題が起きる」という意味ではありません。
一方で安全性が十分確立しているとも言えないため、妊娠中のガドリニウム造影は利益が潜在的リスクを明確に上回る場合に限って検討するという考え方になります。(アメリカ放射線学会)
妊婦の頭痛ではMRIが必要になることも
妊娠中はホルモン変化などによって頭痛が起こることがあります。
しかし、妊婦さんの強い頭痛では、
- 脳静脈洞血栓症
- 脳梗塞
- 脳出血
- RCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)
- PRES
- 下垂体卒中
など、緊急性の高い疾患が隠れていることがあります。
特に、突然の激しい頭痛、今まで経験したことのない頭痛、麻痺・しびれ・言語障害を伴う頭痛、けいれん・意識障害を伴う頭痛などでは、妊娠中であることだけを理由に必要な画像診断を遅らせるべきではありません。
妊娠に気づかずMRIを受けてしまった場合は?
妊娠が判明する前にMRI検査を受け、「赤ちゃんへの影響は大丈夫でしょうか?」と心配される方もいます。
現在の大規模研究では、妊娠初期の非造影MRIで先天異常などが有意に増加するという結果は示されていません。
そのため、単純MRIを受けたという事実だけで過度に心配する必要はありません。(JAMA Network)
ただし、造影剤を使用した場合や検査内容が不明な場合は、担当医や産婦人科へ相談してください。
まとめ
妊娠中でも、医学的に必要であればMRI検査を受けることができます。
現在までのデータでは、妊娠初期の非造影MRIによって胎児や小児期の明確な有害事象が増えることは示されていません。
一方、ガドリニウム造影剤については胎盤を通過するため、妊娠中は原則として慎重な判断が必要です。
大切なのは、妊娠しているから検査をしないのではなく、検査を行う利益と、行わないことによるリスクを比較して判断することです。
参考文献
- Ray JG, Vermeulen MJ, Bharatha A, et al. Association Between MRI Exposure During Pregnancy and Fetal and Childhood Outcomes. JAMA. 2016;316(9):952-961.
約142万件の妊娠を解析した大規模コホート研究。妊娠初期の非造影MRIでは胎児・小児への明確な有害事象増加は認められませんでした。一方、妊娠中のガドリニウム曝露では一部の有害転帰との関連が報告されています。(JAMA Network) - Strizek B, Jani JC, Mucyo E, et al. Safety of MR Imaging at 1.5 T in Fetuses: A Retrospective Case-Control Study of Birth Weights and the Effects of Acoustic Noise. Radiology. 2015;275(2):530-537.
MRI曝露751例と非曝露10,042例を比較し、出生体重や新生児聴覚への明確な悪影響を認めなかった研究です。(PubMed) - American College of Radiology. ACR Manual on MR Safety.
妊娠中のMRI安全管理について記載されており、ガドリニウム造影剤は妊娠中にルーチンで投与すべきではないとしています。(アメリカ放射線学会) - American College of Radiology. ACR Manual on Contrast Media.
妊娠中または妊娠の可能性がある患者への造影剤投与について、安全性とリスク・ベネフィット評価を推奨しています。(アメリカ放射線学会) - Symons SP, Heyn C, Maralani PJ. Magnetic Resonance Imaging Exposure During Pregnancy. JAMA. 2016;316(21):2275.
妊娠中のMRIおよびガドリニウム曝露に関する安全性データを考察した報告です。(JAMA Network)
執筆 三木 貴徳(みき たかのり)
東大阪みき脳神経外科クリニック 院長
資格
- 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医
所属学会
- 日本頭痛学会
- 日本認知症学会
脳卒中・頭痛・認知症などの脳神経疾患を中心に診療しています。
当院ではMRI・MRAを用いた画像診断を行い、患者さんに分かりやすい説明を心がけています。

