突然の頭痛と視覚異常

「突然、今までにない激しい頭痛が起こった」

「頭痛と同時に物が見えにくくなった」

「視野が欠けたり、物が二重に見える」

このような症状が突然出現した場合、下垂体卒中(かすいたいそっちゅう)という緊急性の高い病気の可能性があります。

下垂体卒中は、下垂体にできた腫瘍などに出血や血流障害が起こり、急激に下垂体が腫れることで発症します。

発症頻度は高くありませんが、激しい頭痛に加えて視覚異常や意識障害、ホルモン異常を伴うことがあり、早期診断が非常に重要です。 

今回は、下垂体卒中の原因、症状、MRIによる診断、治療について解説します。

 

下垂体卒中とは?

下垂体は、脳の底にある小さな臓器で、体のさまざまなホルモンを調節しています。

下垂体卒中とは、主に下垂体腫瘍の内部で出血(出血性梗塞)や血流障害(梗塞)が突然起こる病気です。

急激に腫瘍が大きくなることで、

  • 周囲の視神経
  • 海綿静脈洞
  • 脳神経
  • 下垂体そのもの

が圧迫され、さまざまな症状が出現します。 

 

最も多い症状は突然の激しい頭痛

下垂体卒中で最も多く、最も早く現れる症状は急激な頭痛です。

特徴として、

  • 突然発症
  • 非常に強い痛み
  • 目の奥や額の痛み
  • 吐き気・嘔吐を伴う

ことがあります。

頭痛は「雷が落ちたような頭痛」と表現されることもあり、くも膜下出血と区別が難しい場合もあります。 

視覚異常は重要なサイン

下垂体のすぐ上には視交叉(しこうさ)があります。

下垂体が急激に腫れると視交叉を圧迫し、

  • 視力低下
  • 視野欠損
  • 物が見えにくい

といった症状が起こります。

特に典型的なのが、両耳側半盲です。

これは、左右の目の「外側」が見えにくくなる視野障害です。

目が動かしにくくなることも

下垂体の横には海綿静脈洞があり、その中を、

  • 動眼神経(第3脳神経)
  • 滑車神経(第4脳神経)
  • 外転神経(第6脳神経)

が通っています。

これらが圧迫されると、

  • まぶたが下がる
  • 物が二重に見える
  • 目を動かしにくい

といった症状が出ます。

特に動眼神経麻痺が比較的多くみられます。 

 

ホルモンの異常にも注意

下垂体はホルモンを作る重要な臓器です。

下垂体卒中ではホルモン分泌が急激に低下することがあります。

特に注意が必要なのが、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の低下です。

ACTHが低下すると、副腎からコルチゾールが十分に分泌されなくなり、

  • 強い倦怠感
  • 血圧低下
  • 低血糖
  • 意識障害

などを起こすことがあります。

このため、重症例ではヒドロコルチゾン(ステロイド)の速やかな投与が救命につながることがあります。 

 

下垂体卒中を起こしやすい要因

明らかなきっかけがないことも多いですが、以下のような要因が関連することがあります。

  • 高血圧
  • 抗凝固薬の使用
  • 大きな手術
  • 妊娠
  • 頭部外傷
  • 血液凝固異常
  • 下垂体のホルモン負荷試験

などです。 

 

MRIが診断に最も重要

下垂体卒中が疑われる場合、最も重要な検査がMRIです。

MRIでは、

  • 下垂体内の出血
  • 梗塞
  • 腫瘍
  • 視交叉への圧迫
  • 海綿静脈洞への進展

などを詳しく評価できます。

MRIは下垂体卒中の診断に最も有用な検査で、90%以上の症例で診断を確認できるとされています。 

CTでは分からないこともある

救急外来ではまずCTが行われることがあります。

CTで下垂体周囲の出血が分かる場合もありますが、出血量が少ない場合や梗塞主体の場合には診断が難しいことがあります。

そのため、下垂体卒中が疑われる場合にはMRIが重要です。 

 

治療はまず全身状態の安定化

治療では、まず、

  • 血圧
  • 水分
  • 電解質
  • ホルモン

を評価します。

副腎不全が疑われる場合には、ヒドロコルチゾンを速やかに投与します。

その後、

  • 脳神経外科
  • 内分泌内科
  • 眼科

などが連携して治療方針を決めます。

手術が必要な場合

すべての患者さんが手術になるわけではありません。

症状が軽く、視力や視野が安定している場合には、慎重な経過観察と薬物治療が選択されることもあります。

一方、

  • 視力が著しく低下している
  • 視野障害が強い、または悪化している
  • 意識障害が進行している

場合には、経蝶形骨洞手術による減圧術が検討されます。

視機能障害が強い症例では、早期手術によって視力・視野の改善が期待されるとされています。

 

似た病気との鑑別

突然の激しい頭痛と視覚異常がある場合には、下垂体卒中以外にも、

  • くも膜下出血
  • 脳動脈瘤破裂
  • 脳出血
  • 髄膜炎
  • 脳梗塞
  • 海綿静脈洞血栓症

などを考える必要があります。

そのため、自己判断せず、速やかな画像検査が重要です。 

 

Q&A

Q1. 下垂体卒中はどんな頭痛ですか?

突然発症する非常に強い頭痛が典型です。目の奥や額に強い痛みを感じることが多く、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。

Q2. 視力が落ちることはありますか?

あります。下垂体が腫れて視神経や視交叉を圧迫すると、視力低下や視野欠損が起こります。

Q3. MRIで診断できますか?

MRIは下垂体卒中の診断に最も有用な検査です。下垂体内の出血や腫瘍、視神経への圧迫を詳しく評価できます。

Q4. 必ず手術が必要ですか?

いいえ。視力や視野が安定している場合には、ステロイド治療と経過観察で改善することもあります。視機能障害が強い場合などに手術を検討します。

Q5. 下垂体腫瘍がない人にも起こりますか?

多くの患者さんは、発症前に下垂体腫瘍があることを知りません。突然の激しい頭痛と視覚異常があれば、下垂体卒中も鑑別に入ります。

まとめ|突然の頭痛に視覚異常を伴う場合は要注意

下垂体卒中は、下垂体の出血や梗塞によって突然発症する緊急性の高い病気です。

特に注意したいのは、

  • 今までにない突然の激しい頭痛
  • 視力低下
  • 視野が欠ける
  • 物が二重に見える
  • まぶたが下がる
  • 強い吐き気や意識障害

といった症状です。

これらの症状が突然出現した場合は、片頭痛や単なる頭痛と自己判断せず、速やかに救急医療機関を受診してください。

MRIによる早期診断と、必要に応じたステロイド治療や脳神経外科治療が、視機能や生命予後にとって重要です。 

参考文献

国内

  1. 日本内分泌学会.下垂体疾患に関する診療指針
  2. 日本脳神経外科学会.下垂体腫瘍診療に関する資料
  3. 日本頭痛学会.頭痛の診療ガイドライン2021
  4. 日本内分泌学会雑誌.下垂体卒中に関する総説
  5. 日本脳神経外科学会誌.下垂体卒中の診断と治療

海外

  1. Rajasekaran S, et al. UK guidelines for the management of pituitary apoplexy. Clinical Endocrinology. 2011. 
  2. Society for Endocrinology. Emergency management of pituitary apoplexy in adult patients. Endocrine Connections. 
  3. Albani A, et al. Pituitary Apoplexy: An Updated Review. 2024. 
  4. Semple PL, et al. Pituitary apoplexy: an update on clinical and imaging features. 
  5. International Headache Society. International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. 

 

執筆 三木 貴徳(みき たかのり)

東大阪みき脳神経外科クリニック 院長

資格

  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
  • 日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医

所属学会

  • 日本頭痛学会
  • 日本認知症学会

脳卒中・頭痛・認知症などの脳神経疾患を中心に診療しています。

突然の激しい頭痛や視覚異常など、緊急性の高い頭痛を見逃さないよう、MRIを用いた画像診断にも力を入れています。