視覚異常と脳の病気

「突然、片目が見えなくなった」
 

「視野の半分が欠けた」

「物が二重に見える」

「ギザギザした光が見える」

視覚異常が起こると、多くの方はまず「目の病気」を考えると思います。

しかし、目そのものに異常がなくても、脳や脳血管の病気によって視覚異常が起こることがあります。

特に突然発症した視力低下・視野障害・複視などでは、脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)など緊急性の高い病気が隠れていることがあります。

今回は、脳神経外科で注意する代表的な視覚異常について解説します。

 

なぜ脳の病気で「見え方」が変わるの?

私たちは目だけで物を見ているわけではありません。

目から入った情報は、

網膜
↓
視神経
↓
視交叉
↓
視索
↓
外側膝状体
↓
視放線
↓
後頭葉(視覚野)

という経路を通って脳へ伝わります。

つまり、この経路のどこかに障害が起これば視覚異常が生じます。

特に後頭葉は「見る」という機能を担う重要な脳領域です。

 

① 突然、視野の半分が見えなくなった

脳疾患で特に注意したいのが、同名半盲です。

例えば右後頭葉などが障害されると、両眼の左側の視野が見えにくくなることがあります。

患者さんは、

「右目が見えにくい」

「片方の目がおかしい」

と感じることもありますが、実際には両眼の同じ側の視野が欠けていることがあります。

突然発症した場合には、

  • 後頭葉の脳梗塞
  • 脳出血
  • TIA

などを考える必要があります。

② 突然、片目が真っ暗になった

「片目だけ突然見えなくなり、数分すると元に戻った」

という場合には、

一過性黒内障(amaurosis fugax)

に注意が必要です。

典型的には、

「片目にカーテンが下りてきた」

「片目だけ急に暗くなった」

と表現されます。

原因の一つとして重要なのが頚動脈狭窄症です。

頚動脈のプラークや血栓が網膜へ飛び、一時的に血流が途絶えることで発症します。

症状が元に戻っても安心できません。

一過性黒内障はTIAに相当する虚血症状として、その後の脳梗塞リスクを評価する必要があります。

③ 物が二重に見える「複視」

突然、「物が二つに見える」場合も注意が必要です。

特に片目を閉じると二重に見えなくなる「両眼性複視」は、眼球を動かす神経や脳幹の異常で起こることがあります。

原因として、

  • 脳幹梗塞
  • 脳動脈瘤
  • 動眼神経麻痺
  • 外転神経麻痺
  • 滑車神経麻痺
  • 脳腫瘍
  • 下垂体卒中

などがあります。

突然の複視に、

  • めまい
  • ろれつが回らない
  • 手足のしびれ・麻痺
  • 歩けない
  • 強い頭痛

などを伴う場合には、脳幹梗塞などを疑い、早急な評価が必要です。

④ まぶたが下がり、物が二重に見える

突然の眼瞼下垂+複視も重要です。

特に動眼神経麻痺では、

  • まぶたが下がる
  • 物が二重に見える
  • 眼球が動かしにくい

などが起こります。

さらに瞳孔が大きくなっている動眼神経麻痺では、後交通動脈瘤などの脳動脈瘤による圧迫を考える必要があります。

突然の強い頭痛を伴っている場合には、くも膜下出血を含め緊急評価が必要です。

⑤ ギザギザ・キラキラした光が見える

「視界にギザギザした光が出てきた」

「キラキラしたものが徐々に広がる」

という症状は、片頭痛の視覚性前兆(閃輝暗点)でみられます。

片頭痛の前兆では、

  • ギザギザした光
  • キラキラ・チカチカする
  • 視野の一部が見えにくくなる
  • 徐々に症状が広がる

などが特徴です。

国際頭痛分類ICHD-3では、典型的な前兆は5分以上かけて徐々に進展し、それぞれの症状が5~60分持続することが特徴とされています。

また、視覚性前兆は片頭痛前兆の中で最も多く、前兆のある片頭痛患者の90%以上で経験するとされています。

 

「閃輝暗点」と「脳梗塞」はどう違う?

患者さんから非常によく質問されます。

一般的には、

片頭痛の前兆

徐々に広がる

「キラキラ」「ギザギザ」など、通常は存在しないものが見える陽性症状を伴うことが多い。

TIA・脳梗塞

突然発症する

「見えない」「欠ける」「暗くなる」といった陰性症状が主体になることが多い。

という違いがあります。

ただし、これだけで完全に区別できるわけではありません。

特に、

  • 初めて起こった
  • 40歳以降で初めて出現した
  • 突然発症した
  • 視野が欠けるだけでキラキラしない
  • 60分以上続く
  • 麻痺や言語障害を伴う

場合には、片頭痛と思い込まず脳梗塞・TIAなどを除外することが重要です。

⑥ 頭痛+視力低下・視野障害

「激しい頭痛」と「視覚異常」が同時に起こった場合には、特に注意が必要です。

原因として、

  • くも膜下出血
  • 脳動脈瘤
  • 下垂体卒中
  • 脳静脈洞血栓症
  • RCVS
  • PRES

などがあります。

なかでも下垂体卒中では、

  • 突然の激しい頭痛
  • 視力低下
  • 視野障害
  • 複視
  • 眼瞼下垂
  • 吐き気・嘔吐

などが突然出現することがあります。

下垂体のすぐ上には視神経・視交叉があるため、急激に腫大すると視機能に影響します。

⑦ 徐々に視野が狭くなってきた

急激ではなく、

「最近、物にぶつかるようになった」

「横から来る人に気づきにくい」

など、徐々に視野障害が進行する場合もあります。

特に両耳側半盲と呼ばれる、両目の外側が見えにくくなる視野障害では、視交叉を圧迫する病変を考えます。

代表的なのが、

下垂体腺腫などの下垂体腫瘍です。

徐々に進行する視野障害では眼科的評価に加え、必要に応じて脳MRIによる評価が重要になります。

⑧ 「見えているのに認識できない」

視力そのものが保たれていても、脳の高次視覚機能が障害されることがあります。

例えば、

  • 見えている物が何か分からない
  • 人の顔を認識しにくい
  • 文字を読むことが難しい
  • 見えている物の位置関係を理解しにくい

などです。

後頭葉から側頭葉・頭頂葉にかけての障害で起こることがあり、

  • 脳梗塞
  • 脳腫瘍
  • 神経変性疾患

などが原因になります。

 
MRI・MRAで何が分かる?

脳疾患が疑われる視覚異常では、症状に応じてMRI・MRAが重要になります。

MRIでは、

  • 脳梗塞
  • 脳出血
  • 脳腫瘍
  • 下垂体病変
  • その他の脳病変

などを評価します。

MRAでは、

  • 脳動脈瘤
  • 脳血管狭窄
  • 脳血管閉塞

などの評価が可能です。

ただし、視覚異常には網膜剥離、急性緑内障、網膜動脈閉塞など眼科領域の緊急疾患もあります。

「脳か目か」を最初から患者さん自身で判断する必要はありません。

突然の視覚異常では速やかな医療機関受診が重要です。

こんな視覚異常はすぐに受診を

特に注意していただきたいのは、

  • 突然見えなくなった
  • 突然視野が欠けた
  • 片目が突然真っ暗になった
  • 突然物が二重に見えた
  • 視覚異常と同時に激しい頭痛が起こった
  • 顔や手足の麻痺・しびれを伴う
  • ろれつが回らない
  • 意識がおかしい
  • 今まで経験したことのない視覚異常

などです。

症状が数分で治っても安心できません。

TIAなどでは症状が完全に消失することがあります。

 

Q&A

Q1. 視野が欠けたら眼科と脳神経外科、どちらを受診すればいいですか?

突然発症した視野障害では、眼疾患だけでなく脳梗塞やTIAなども考える必要があります。特に麻痺、しびれ、言語障害、強い頭痛などを伴う場合は救急受診が必要です。

Q2. キラキラした光が見えたら片頭痛ですか?

閃輝暗点の可能性がありますが、初めての症状や典型的でない症状では他の病気を除外する必要があります。

Q3. 片目だけ見えなくなり、5分で治りました。大丈夫ですか?

大丈夫とは言えません。一過性黒内障の可能性があり、頚動脈狭窄症などが原因になっている場合があります。症状が消えていても早急な評価が必要です。

Q4. 複視は脳梗塞の症状になりますか?

なります。特に突然の複視に、めまい、ふらつき、構音障害、麻痺などを伴う場合には脳幹梗塞を考える必要があります。

Q5. MRIを撮ればすべて分かりますか?

MRI・MRAは脳疾患の診断に非常に有用ですが、視覚異常には眼科疾患もあります。症状に応じて眼科検査、頚動脈エコー、CTなどを組み合わせて診断します。

まとめ|「見え方の異常」は脳からのサインかもしれません

視覚異常というと「目の病気」と考えがちですが、実際には視覚情報の多くは脳で処理されています。

特に、

突然の視野欠損
突然の片眼視力低下
突然の複視
眼瞼下垂
激しい頭痛を伴う視覚異常

には注意が必要です。

脳梗塞・TIA・脳動脈瘤・下垂体卒中など、早期診断が重要な病気が隠れていることがあります。

一方、徐々に広がるギザギザ・キラキラした視覚症状では片頭痛の前兆も考えられます。

大切なのは、

「いつもと違う見え方」を自己判断しないことです。

突然発症した視覚異常や神経症状を伴う場合には、速やかに医療機関を受診してください。

 

参考文献

  1. 日本頭痛学会.頭痛の診療ガイドライン2021
  2. Headache Classification Committee of the International Headache Society. The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition (ICHD-3). Cephalalgia. 2018.
  3. International Headache Society. Migraine with aura, ICHD-3.
  4. American Heart Association/American Stroke Association. Guidelines for the Prevention and Management of Stroke.
  5. Society for Endocrinology. UK Guidelines for the Management of Pituitary Apoplexy.

 

執筆 三木 貴徳(みき たかのり)

東大阪みき脳神経外科クリニック 院長

資格

  • 日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会 脳卒中専門医
  • 日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医

所属学会

  • 日本頭痛学会
  • 日本認知症学会

脳卒中・頭痛・認知症などの脳神経疾患を中心に診療しています。