治療可能な認知症
正常圧水頭症
正常圧水頭症とは髄液の流れに何らかの異常が生じ、脳室内に脳脊髄液が溜まることにより脳室が拡大し、脳が圧迫され萎縮する病気です。
歩行障害、認知障害、尿失禁が主症状でありこれらは3徴候と呼ばれます。
MRI検査で脳室の拡大所見があり、他の疾患では症状を説明できない場合には、特発性正常圧水頭症を疑い、次にタップテストと呼ばれる検査を行います。タップテストとは、腰椎穿刺(腰から針を刺す)を行い、脳脊髄液を排除して、症状(歩行障害、認知障害、尿失禁)が改善するかどうかを確認します。
タップテストで改善があれば、正常圧水頭症と診断しシャント術とよばれる手術を行います。シャントとは日本語で「短絡」を意味し、余計な脳脊髄液が体内の別の場所に常時排出されるよう、チューブで繋ぐ手術ということになります。
手術を希望される方は提携の脳神経外科専門病院へ紹介させていただきます。
MRI冠状断 脳室、シルビウスレ裂の拡大を認めます。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、急性の頭部外傷ではなく、頭部を打撲してから3週間から3か月ほど経ってから、頭蓋骨と脳の間に血液が溜まってくる状態です。
歩行障害、頭痛、物忘れ、失禁といった症状がみられ、重症の場合は、意識障害を起こすこともあります。高齢者の場合は、認知症と間違われることもあるので注意が必要です。診断は頭部MRI検査で硬膜下の血種の有無を確認します。
症状がある場合は穿頭ドレナージ術を行います。局所麻酔下に、頭蓋骨に直径約1cmの穴をあけ、硬膜を切開して血腫を吸引除去します。脳への圧迫をなくすことで症状の改善が期待できます。入院期間は通常1週間ほどです。術後、再発の可能性が5~10%程度あり、MRIやCT検査による定期的な経過観察を行います。
右硬膜下腔に血種の貯溜認めます。
脳腫瘍
脳腫瘍とは、その脳や脳をとりまく組織にできる腫瘍の総称で、複数のタイプがあります。脳腫瘍の患者数は10万人あたり10人程度と推測されており、乳幼児から高齢者まであらゆる世代にみられるのが特徴です。脳以外の部位にできたがん細胞が血液によって運ばれて頭蓋内に転移する転移性脳腫瘍と、脳内の細胞そのものががん化する原発性脳腫瘍に分類されます。
脳腫瘍は頭蓋骨の内側に生じるため、ある程度の大きさになると頭蓋骨の内側の圧力が増加することによって、腫瘍の種類に関係なく共通した症状があらわれます。頭痛、嘔吐、目がかすむ(視力障害)が代表的な症状で、これは頭蓋内圧亢進症状と呼ばれています。特に早朝頭痛と言われるような朝起床時に強い頭痛を訴える場合、食事とは無関係に悪心を伴わずに吐く場合などは、頭蓋内圧亢進が疑われます。腫瘍が疑われる場合、症状の詳しい経過を問診した上で、腫瘍の位置や大きさを確かめるために、MRI検査で頭の中の画像検査を行います。
治療法は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含めて検討します。良性腫瘍は、正常組織との境界がはっきりしているため手術で切除できるものが多く、完全に切除すれば治癒が期待できます。脳の奥深くに腫瘍があるなど切除が困難な場合には、手術で腫瘍の一部を切除してから、放射線治療を行うことがあります。腫瘍の増殖速度が遅い場合は、すぐに治療せず、しばらく経過を観察することもあります。悪性腫瘍では、腫瘍の種類や悪性度に応じて、手術や放射線、薬物療法を組み合わせた治療を行います。
右脳に腫瘍性病変認めます。髄膜種を疑います。
甲状腺機能低下症
甲状腺は、喉仏の下にあるホルモン分泌器官で、5cm程度の小さな臓器です。ヨードを材料にして甲状腺ホルモンを産生、分泌しています。
甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を活性化するホルモンです。多すぎると新陳代謝が活発になりすぎて興奮状態が持続してしまい、逆に少なすぎると気力や活力が低下し、うつ病や認知症に似た症状が出現します。
採血により甲状腺ホルモンを測定し、低下があれば甲状腺機能低下症と診断されます。
甲状腺機能低下症の治療には、甲状腺ホルモンである合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用による治療を行います。
その他の認知症
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く認知症の約60%を占めます。脳の神経細胞にアミロイドβというタンパク質がたまり、それが神経細胞を破壊し、脳が萎縮していくことで発症します。
症状はもの忘れで発症することが多く、数年かけてゆっくりと進行します。進行すれば見当識障害(時間、場所がわからない)、性格変化、失禁、徘徊などの症状が出現し、日常生活に介助や介護が必要な状態となります。
診断は問診や認知機能テスト、MRI検査を行い総合的に判断します。
根本的な治療法はありませんが、早期に診断し、薬物治療やリハビリテーションを行い、症状の進行を遅らせることが重要です。
薬物治療にはアリセプト、レミニール、イクセロン、リバスタッチ、メマリーを使用します。
側頭葉の内側、海馬中心に脳の萎縮を認めます。
脳血管性認知症
アルツハイマー型認知症に次いで多く、全体の約20%を占めます。
脳血管性認知症は脳血管障害(脳梗塞や脳内出血など)にて生じる認知症です。
脳梗塞とは脳の血管が詰まって、脳の一部に血が流れなくなってその部分の脳の働きが消えてしまう病気です。
脳出血は脳の血管が破れて出血し、その部分の脳細胞が溜まった血液によって押されて様々な症状が現れます。
脳梗塞や出血が起こると、起こった部分の脳機能が局所的に障害されますが、血流に問題ない部分の脳機能は維持されます。
このように、できることとできないことに大きな能力の差がある状態のことをまだら認知症と言います。
物忘れや意欲低下にくわえて呂律が回らない、手足のまひ、歩行障害、飲み込みが悪いなどの運動症状を呈することもあります。 症状の進行をおさえるためには脳梗塞や脳出血の原因となる高血圧や糖尿病、高脂血症、心房細動など生活習慣病のコントロールが重要です。
レビー小体型認知症
アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3つを3大認知症と呼びます。
レビー小体型認知症はその名の通りレビー小体という異常タンパクが中枢神経や自律神経に出現します。
認知症以外にさまざまな症状がみられます。
見えないものが見える(幻視)、嗅覚障害、立ちくらみや便秘などの自律神経症状また動きが緩慢になり筋肉が固くなるパーキンソン症状などが出現します。
MRI検査以外に特殊な検査(MIBG心筋シンチグラフィやダットスキャン)を行い、ほかの認知症と鑑別します。
アルツハイマー型認知症と同様に根本的な治療法はありません。
それぞれの症状に対して適切な薬剤を使用し、症状を緩和する対症療法が治療の要となります。
※当院ではMIBG心筋シンチグラフィ、ダットスキャンは撮影できません。必要な場合は撮影可能な医療機関へ紹介させていただきます。
前頭側頭型認知症
ほかの認知症とくらべて若い年齢で発症します。平均発症年齢は40~60歳といわれています。
前頭葉は人格・社会性・言語を、側頭葉は記憶・聴覚・言語を主につかさどっています。
そのため人格の変化や社会性の欠如、失語症の症状を呈します。
特徴的にはお店で万引きをするなどの反社会行動、同じ時間に同じ行為をするといった常同行動、自分や他人に無関心になる自発性の低下、言葉の使用と理解が次第に困難になる失語症を呈します。
前頭側頭型認知症の有効な治療法はまだ見つかっていないが実情です。そのため症状を緩和するための対症療法やケアが治療の中心となっています。対処療法として、抗うつ病薬の一部に行動異常を和らげる効果が認められています。