歩行は脳・神経・筋肉・関節など
様々な要因によって困難になることがあります
脳卒中や正常圧水頭症、パーキンソン病などの脳神経の病気、頚椎症や腰椎症など脊髄疾患の病気は歩行障害を引き起こす原因となります。
脳卒中や脳腫瘍、脊髄症などは採血やMRI検査で容易に診断可能ですが、パーキンソン病や末梢神経障害によるものはMRI検査だけでは診断が困難なものもあります。
脳や脊髄が原因となる歩行障害は、治療が遅れると重篤な後遺症を残す可能性がありますので、自覚があればなるべく早く受診することをおすすめします。
歩行障害をひきおこす疾患を提示します。
脳卒中
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、脳が障害を受ける病気です。脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞、破れる脳出血やくも膜下出血があります。
日本の脳卒中による死亡者数は年間13万人、死亡原因の第4位を占めています。また、発症すると永続的な後遺症が残存する可能性があり、寝たきりの原因では第1位です。
脳卒中の原因は動脈硬化と心臓の不整脈(心房細動)が大半を占めております。
動脈硬化は高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙などの生活習慣病と関連しており、これら悪い生活習慣からご自身を遠ざけることが予防には重要です。
脳卒中は一度発症してしまうと、重篤な症状を残す可能性がある病気です。
脳ドックにてご自身の脳や脳血管の状態を把握し、必要に応じて治療を開始し、脳卒中を予防することが健康に長生きすることために大切です。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、急性の頭部外傷ではなく、頭部を打撲してから3週間から3か月ほど経ってから、頭蓋骨と脳の間に血液が溜まってくる状態です。
歩行障害、頭痛、物忘れ、失禁といった症状がみられ、重症の場合は、意識障害を起こすこともあります。高齢者の場合は、認知症と間違われることもあるので注意が必要です。診断は頭部MRI検査で硬膜下の血種の有無を確認します。
症状がある場合は穿頭ドレナージ術を行います。
局所麻酔下に、頭蓋骨に直径約1cmの穴をあけ、硬膜を切開して血腫を吸引除去します。
脳への圧迫をなくすことで症状の改善が期待できます。
入院期間は通常1週間ほどです。
術後、再発の可能性が5~10%程度あり、MRIやCT検査による定期的な経過観察を行います。
正常圧水頭症
正常圧水頭症とは髄液の流れに何らかの異常が生じ、脳室内に脳脊髄液が溜まることにより脳室が拡大し、脳が圧迫され萎縮する病気です。
歩行障害、認知障害、尿失禁が主症状でありこれらは3徴候と呼ばれます。
MRI検査で脳室の拡大所見があり、他の疾患では症状を説明できない場合には、特発性正常圧水頭症を疑い、次にタップテストと呼ばれる検査を行います。
タップテストとは、腰椎穿刺(腰から針を刺す)を行い、脳脊髄液を排除して、症状(歩行障害、認知障害、尿失禁)が改善するかどうかを確認します。
タップテストで改善があれば、正常圧水頭症と診断しシャント術とよばれる手術を行います。シャントとは日本語で「短絡」を意味し、余計な脳脊髄液が体内の別の場所に常時排出されるよう、チューブで繋ぐ手術ということになります。
手術を希望される方は提携の脳神経外科専門病院へ紹介させていただきます。
腰部脊柱管狭窄症
背骨は、椎骨と、それをつなぐ椎間板や黄色靭帯などで構成されており、その内側には脊髄の神経が通る「脊柱管」があります。
脊柱管狭窄症とは、その脊柱管が狭くなる病気です。
50歳代から徐々に増え始め、60~70歳代に多くみられます。
代表的な症状は坐骨神経痛や間欠性跛行という症状です。
坐骨神経痛は腰やお尻から太ももの裏、足首にかけて痛みと痺れのことを言います。
間欠性跛行とは、長い時間歩くと臀部痛や下肢痛がひどくなり、しばらく休むとまた歩けるようになる症状です。
治療はまずは症状の程度に応じて薬を処方します。
具体的には圧迫された神経の血流を改善する薬や鎮痛薬,神経の過敏性を改善する薬等です。手術は経過が長く症状の改善が乏しい方,徐々に歩けなくなっている方,日常生活や仕事に支障をきたしている方,麻痺、膀胱直腸障害がある方に適応になります。
パーキンソン病
60歳以上の高齢者に好発し、60歳以上の100人に1人が発症していると言われています。 神経伝達物質のドパミンを生成する中脳の黒質が変性することが原因と特定されています。
振戦(ふるえ)、筋固縮、動作緩慢、姿勢反射障害(バランスがとりづらい)などの運動症状にくわえ幻覚やうつ症状などの精神症状、便秘や起立性低血圧などの自律神経症状などを併発します。
MRI検査では診断は難しく、病歴の聴収や特殊な検査(MIBG心筋シンチグラフィーやDATスキャン)を行い診断を確定します。
これらの検査は当クリニックでは対応しておらず、必要な場合は近隣の専門病院へ紹介させていただきます。
残念ながら根本的な治療法は確立されておりません。
脳内で不足するドパミンを薬で補充する薬物療法と運動機能を維持する目的で行うリハビリテーションが治療の中心となります。
10年から20年をかけてゆっくり進行する病気でありますが、適切な治療を行い自立した生活期間を延長させることが治療の目標となります。