『身体を支える』・『身体を動かす』・『神経の保護』が
脊椎の役割です
脊椎は、一般的に背骨といわれている部分を指します。脊椎は体のなかで大変長い部位を占める骨であり首(頚椎)~おしりのあたり(仙骨)まで40cm上もあります。
脊椎は椎骨と呼ばれる骨がずっとつながって連結したものですが、その数は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎、尾骨があります。
脊椎の役割は、「身体を支える(支持)」「身体を動かす(運動)」「神経の保護」です。
頸椎、腰椎の代表的な疾患について説明します。
脊椎疾患とは、外傷や炎症、腫瘍、加齢変性など様々な原因により、脊柱や脊柱管を通る神経に異常を来した状態を言います。
後頚部痛や腰痛、または手足のしびれで発症することが多いです。
進行すると手足の筋力低下や歩行障害、排尿・排便障害がおこり日常生活に支障をきたすことがあります。
頸椎椎間板ヘルニア
頸椎は7つの椎体骨と呼ばれる骨からなります。
その一つ一つの間にクッションの役割を担う椎間板と呼ばれる組織が存在します。
この椎間板がパンクし、その内容物が突出した結果、椎間板後方に存在する神経(脊髄、神経根)を圧迫した状態を頸椎椎間板ヘルニアといいます。
30~50歳代の男性に多く、5番目と6番目の椎体骨の間の椎間板に最も多く発生します。
頸部痛や肩甲骨周囲の痛みで始まることが多いです。
また両上肢や片側上肢のしびれが初発症状となることも多いです。
ボタン掛け、書字、箸の使用が困難となったり(巧緻運動障害)、ふらつきなどを生じ、階段の昇降が困難となり、手すりが必要となることも多いです。
重症例では、排尿、排便障害が出現し、歩行不能となる場合もあります。
診断にはレントゲン検査だけでは不可能で、15分程度のMRI検査だけで容易に診断できます。
通常は手術をせずに保存的治療(薬や安静)で軽快しますが、適切な治療にも関わらず下肢の痛みが治らない場合、下肢の麻痺が進行する場合や前述の排尿、排便障害がでてくるような場合には、手術が必要です。
頸部MRIにて頸椎5/6の椎間板ヘルニアを認めます。
頸部脊柱管狭窄症
背骨の中には脊髄が通っています。その脊髄が通っている空間のことを脊柱管といいます。脊柱管がさまざまな原因で狭くなってくることを脊柱管狭窄症と呼んでいます。
頸部脊柱管狭窄症の好発年齢は50~80代です。 ご年配の方に多いことから、加齢による影響が大きいと考えられています。 男女比では、男性の方が多い傾向にあります。
主な原因は加齢によるものであり、頚椎周囲の軟部組織である椎間板、後縦靭帯、黄色靭帯などが首の神経を圧迫してしまうことで生じます。神経症状としては、手や指の痺れ、細かい動きが難しいなどの症状を引き起こすことがあり、筋力低下も生じるため徐々に物を持つのが難しいといった症状もでてくることもあります。
MRIでは椎間板の膨隆や神経の圧迫状態まで明確に確認できるので、確定診断のためにはMRIが用いられます。
薬の内服、神経ブロックなどの保存療法と手術療法がございます。保存療法での治療効果が期待できない場合は、手術療法を選択します。
手術療法が必要な場合は、信頼できる専門の医療機関へ紹介させていだきます。
頸部MRIで頸椎4番から頸椎7番の範囲に脊柱管狭窄を認めます。
後縦靭帯骨化症
後縦靱帯骨化症とは、椎骨の後縁を上下に連結し、背骨の中を縦に走る後縦靭帯が骨化した結果、脊髄の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が押されて、感覚障害や運動障害等の神経症状を引き起こす病気です。
病気が発症するのは中年以降、特に50歳前後で発症することが多く、男女比では2:1と男性に多いことが知られています。 また、糖尿病の患者さんや肥満の患者さんに後縦靱帯骨化症の発生頻度が高いことが分かっています。
多くは首や肩甲骨周辺、手や指の痛みやしびれに始まり、手や腕の感覚が無くなったり、握力を始め筋力が低下してきます。
症状の進行に伴って手先を使う作業が上手くできなくなり、場合によっては下半身にも症状が出現し、ふらついたり、うまく歩けないといった症状が出現します。あとは膀胱直腸障害と言って尿や便が出にくくなったり、逆に頻尿や失禁がみられることもあります。
軽度の場合には保存療法を選択します。圧迫されている神経を保護するために、頚椎カラ―などの首を固定する装具を装着したり、首を反らしたりする姿勢を避け、理学療法や薬物療法で症状を抑えます。症状は進行しないことも多いですが、一度後縦靭帯骨化症の診断を受けた際は、定期的なレントゲンやCT、MRIなどの画像検査を行い症状の進行を把握しておくことが重要です。
重症化した例には手術療法を選択します。
頸部CTにて頸椎3番から頸椎7番にかけて後縦靭帯の骨化像を認めます。
腰椎椎間板ヘルニア
椎間板は人間の背骨にあり、骨と骨のあいだでクッションの役割をしています。
椎間板に負担がかかり、椎間板内部にある髄核という組織が外に飛び出して神経にぶつかった状態が椎間板ヘルニアです。
神経がダメージを受けると腰や下肢の痛みや力が入らないといった神経症状が出現します。
腰椎椎間板ヘルニアは、20~40歳代の男性に多いといわれています。
初期症状としては、腰痛が挙げられます。重いものを持ち上げたとき、またその翌日に発症するケースがよく見られます。
その後、お尻から脚にかけて痛みが拡大します。また下肢に痺れを伴うこともあります。
背筋を伸ばしているときに症状が軽く、背中を丸めたときに症状が強くなる傾向があります。
神経の圧迫が強くなると、筋力低下や知覚障害、排尿障害をきたすこともあります。
腰椎椎間板ヘルニアの治療の基本は薬と安静です。
多くの椎間板ヘルニアは、薬で痛みを抑えている間に自然に消えてよくなっていきます。
3か月間、薬や安静で改善しない場合や下肢の筋力低下、膀胱直腸障害(尿閉や便秘など)を呈してる場合は手術を選択します。
MRIにて腰椎4番5番間に椎間板ヘルニアを認めます。
腰部脊柱管狭窄症
背骨は、椎骨と、それをつなぐ椎間板や黄色靭帯などで構成されており、その内側には脊髄の神経が通る「脊柱管」があります。脊柱管狭窄症とは、その脊柱管が狭くなる病気です。
50歳代から徐々に増え始め、60~70歳代に多くみられます。
代表的な症状は坐骨神経痛や間欠性跛行という症状です。
坐骨神経痛は腰やお尻から太ももの裏、足首にかけて痛みと痺れのことを言います。
間欠性跛行とは、長い時間歩くと臀部痛や下肢痛がひどくなり、しばらく休むとまた歩けるようになる症状です。
治療はまずは症状の程度に応じて薬を処方します。具体的には圧迫された神経の血流を改善する薬や鎮痛薬,神経の過敏性を改善する薬等です。
手術は経過が長く症状の改善が乏しい方,徐々に歩けなくなっている方,日常生活や仕事に支障をきたしている方,麻痺、膀胱直腸障害がある方に適応になります。
MRIにて腰椎2番から4番に脊柱管狭窄を認めます。
腰椎圧迫骨折
高齢者や女性に多いと言われる腰椎圧迫骨折は、外部から加えられた圧迫する力によって、脊椎の椎体と呼ばれる部分がつぶれてしまうことによって起こります。
脊椎は複数のパーツからなり、腰椎圧迫骨折の多くは胸椎から腰椎の胸腰椎移行部に多発するとされています。
腰椎圧迫骨折は、骨粗鬆症の人がなるケースが多いです。
身体を動かしたときなどに激痛が走りますが、身体を動かさずに安静にしていれば、それほどの痛みを感じることはありません。
しかし症状が進行して、椎体の骨が脊柱管内に突き出し、その骨が神経を圧迫してしまうと、安静にしていても下肢の痛みや痺れを感じます。
MRI検査では、骨折が新しいものか、古いものかと骨折の発症の時期まで明らかにすることが可能です。
腰椎圧迫骨折では、基本的にはコルセット装着などによって患部を安静に保ち、骨癒合が生じるのを待つ保存的な治療が行われます。
しかし、強い外力による圧迫骨折で、骨折部の変形が神経を圧迫している場合や、痛みが改善しない場合などには、手術によって神経圧迫を解除することもあります。
腰椎MRIにて腰椎1番の椎体に急性期の圧迫骨折を認めます。